日時:平成31年3月20日(水) 午後7時30分
場所:葛飾区歯科医師会館
演題:新しい病名「口腔機能低下症」について
講師:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
高齢者歯科学分野 教授 水口俊介先生
厚生労働省から平成23年11月に「歯科治療の需要の将来予測のイメージ図」発表されました。これまで歯科医療の対象がう蝕や歯周病、欠損補綴のような形態を回復する治療が主体でしたが、今後は全身疾患を抱えた通院困難な高齢者の口腔機能の維持回復を主眼とするような歯科医療が求められてくることが記載されています。
平成26年に「オーラルフレイル」の概念が紹介されました.社会性や食環境の悪化に起因する身体機能の低下や要介護状態に至る構造的な流れを4つの段階に分けて説明していますが,口腔の機能低下を経由して,全身の機能低下が進行する過程の概念がはじめて示されました。このなかで,口腔のわずかな衰え示す段階を「オーラルフレイル」と表現しております.この言葉は訴求力がきわめて強く,当時,東京医科歯科大学で開催された記者懇談会では,その時のテーマであった新しい歯科診療センターに関する質問はほとんどなく,たまたま話題で取り上げた「オーラルフレイル」に関する質問が大部分であったのです。
日本歯科医師会は「8020運動」に「オーラルフレイル」を啓発の標語として加え健康長寿に対する貢献を宣言しています.また日本老年歯科医学会は歯科医療関係者が介入すべき病名として「口腔機能低下症」の診断基準について学会見解論文を発表している.すなわち,「オーラルフレイル」は口腔機能が衰えフレイルへの坂道を下り始めた高齢者をかかりつけ歯科医にいざなう「言葉」であり、「口腔機能低下症」は歯科医が口腔機能の低下を阻止し回復させ,維持するための根拠となる「病名」であるということです。
「口腔機能低下症」は昨年4月に保険収載されました.7個の診断基準のうち3個を満たせば「口腔機能低下症」の病名が付与され歯科疾患管理料にて管理し,「咬合圧低下」「咀嚼能低下」「低舌圧」の診断基準を満たせば口腔機能管理加算を算定するという,歯科医療が口腔機能を管理し維持増進させるという仕組みが出来上がったわけです。しかしながら、いまだ東京都内では口腔機能管理加算の算定はあまり進んでい
ないという話を伺います。7個も診断するのは大変、実際にどのような治療をすればよいかわからない、というお話もよく聞きます.実際に新しい概念の病名を診療に取り入れるのはハードルが高いと思うのですが、この「口腔機能低下症」をどんどん算定していただき育てていただければと思います。
(略歴)
昭和58年 3月 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
昭和62年 3月 同大学大学院歯学研究科 修了
平成元年 4月 同大学歯学部高齢者歯科学講座助手
平成13年 4月 同大学大学院医歯学総合研究科口腔老化制御学分野講師
ロマリンダ大学歯学部Visiting Research Professor
平成17年 2月 同大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野助教授
平成20年 3月 同大学大学院医歯学総合研究科全部床義歯補綴学分野教授
平成25年 4月 同大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野教授
参加費:他地区会員 2000円
都歯準会員 無料
一般歯科医師 10000円